「物」と私たちが言うものは、直ちに「存在」と結び付けられるが、実は必ずしもそうではなく、光と影すなわち明と暗の関係においてしか、視覚的には存在しえない。
それに気付くまでに、私たちは19世紀中期に至る長い期間を費やしたのだが、いったん、この原理に気付いた後の画家たちは、この光と影、明と暗の関係を自由に操り、また無視して「物」から離れ、自由を享受することとなった。
しかし、「物」はもはや絵画において不要となったのか。いや、そんなことはない、と考え、光と影、明と暗の織り成す微妙な関係に分け入って、飽くことのない探求を続ける一人の画家がいて、その成果の一つがここに示されているわけである。
「物」と画家の眼との見較べともいうべき厳しくまた楽しい交感が、これら一群の光彩に富んだ作品を生んでいる。
1995年個展に寄せて 美術評論家 瀬木慎一
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